家に着いたときはだいぶ遅い時間になっていた。


「じゃあね、斗真」
「おう」


わずかだけど家が手前の斗真が先に玄関につく。でも家に入らずに、こっちをじっと見てる。


「……なに?」
「い、いや、別に……」
「じゃあ早く家入れば?」
「か、鍵探してんだよ!気にしねぇで先家入れ!」
「はいはい」


私は笑いをこらえながら家のチャイムを押した。中から“はいはーい、どなたぁ?”という声と玄関に向かって走ってくる音がする。
ドアが開き、お母さんが顔を出す。


「あらおかえり、杏奈。……まぁまぁ!いらっしゃい、リンゴちゃん!なんだか久しぶりに見る気がするわねぇ!こんなにかわいくなっちゃって!」
「高校の入学式の時にも同じこと言ってたよ、お母さん」
「おじゃまします、お母さま!」
「まぁえらいわねぇ!さ、中にどうぞ」


なんだ、このわざとらしい演技みたいな会話。お母さんが大げさな人だってのは知ってるけど、リンゴ!“お母さま”とか言う人だった?
少しイラッとしながら、ふと隣の家を見た。斗真が家に入っていくところだった。


やっぱりね。私たちが家に入るまで見てたんだ。
一応幼なじみだから知ってる。誰かが家にいるときは斗真んちの玄関の鍵はあいてること。家の電気がついてるし、誰かがいることは明白。


「わかりやすいやつ」


そうやっていつも守ってくれようとしてること、本当は知ってるよ?
ムカムカがすーっと消えていった。