暗い部屋に時計の音が響く。そんな静かな夜なのに、千夜煌の部屋だけは違う空間のようだ。


「高校の理科って選択でしょ?化学とか物理とか。僕の母さん、高校の地学の先生でさ。でも地学ってあんま取る人いなくて。恋海さんは数少ない母さんの生徒だったんだよね」
「お前、自分の母親の生徒、全部覚えてんのか?」
「まさか。コンペイくんよりは断然頭いいけど、そこまで記憶はできないよ」
「あ゛ぁ?」


真島亮輔の挑発的発言に少し反応した金平斗真だったが、それ以上は声をあげなかった。
怒るよりも続きが気になるのだろう。


「恋海さんはうちに何度か来たことがあるんだ。初めて会ったのは5年生の夏だったかな……すごくきれいな人だなって子どもながらに思った気がする」
「なんで姉さんが真島んちに?」
「星を見に。うちに大きな望遠鏡があったから。地学の中でも宇宙、星に興味があって、母さんと意気投合したみたい。あのころは母さんによく聞かされてたから覚えてる」


話から考えると、真島亮輔が小学5年生ということは6年前のことになる。理科の選択に地学が入るのはだいたい高校2年生だ。おそらく千夜恋海が初めて訪れたのもその年だろう。


「大学は地元離れたんでしょ?母さん寂しがってた。恋海さんの部屋あるってことはこっち戻ってきたの?今日はいないみたいだけど……」
「姉さんは……」


その問いに、千夜煌は口をつぐんだ。目が慣れてきたとはいえ、暗闇でお互いの表情は見えない。誰もが話し始めるタイミングをつかめずにいたが……


「チヨの姉、レミは亡くなった。2年前に、病気で……」


そうポツリと言ったのは、久喜一臣だった。