ライオンは孤独だった。
百獣の王と称されることが嫌だった。
ほかの動物の肉を食らうことに抵抗を感じていた。
そんな彼をほかのライオンは気味悪く思い、次第に遠ざかっていった。


ライオンは孤独だった。
ある日を境に、ライオンはほかの動物の肉を食べるのをやめた。
ライオンは友達がほしかった。
しかし、ほかの動物は彼の姿を見るだけで逃げていった。
ライオンは彼らの目の届くギリギリの所で草を食べ過ごした。
そうすれば、彼らが安心し、仲間にいれてくれるような気がしたからだ。
草食動物のなかで、肉を食べないライオンの噂は広まっていった。
少しづつ、彼に近寄ってくる動物がでてきた。
しかし、それはライオンが期待していた類のものではなかった。
ライオンに近づくことは、彼らにとって一種のゲームのようなものだった。
それでもライオンは草を食べ続け、近づいてきた動物に話しかけ続けた。
ある時からゲームは嘲笑に変わった。


ライオンは孤独だった。
いくらからかっても反応しないライオンに飽きて、いつしか誰も彼に近づかなくなった。
ライオンは毎日、花を見て過ごした。
花は美しく、何も言わず、ただじっと生きていた。
ライオンは草を食べるのもやめた。
木の陰で寝転び、花や空を見ていた。
ライオンは段々と痩せ、衰えていった。
もう動く力すら彼には残っておらず、ただ目を開けているだけだった。


ライオンは孤独だった。
ある日、いつものように空を見上げていると、十数羽のハゲタカが彼に向かってきた。
どうやら彼を襲うつもりらしかった。
ライオンは動じなかった。
死など怖くはなかった。
自分の周りに次々と降り立つハゲタカを見つめていた。
ハゲタカ達はライオンに少しずつ近づき、安全を確かめると言った。

「いただきます。」

ライオンは泣いた。
肉をついばまれ、ずたずたになりながら泣き続けた。
それは悲しみの涙ではなかった。