いけてない私の育てかた

そして私はすっかり忘れていた、これから約1時間程この暗い森の中で佐藤くんと二人っきりになることを。


「次は俺たちの番だね。

えっとー、3番。チェックポイントラストの所だ。

大丈夫?早乙女さんあそこまで行ける?」


「はい、大丈夫です。」


なんて言ったけど、まったく大丈夫じゃない。さっきは6人行動でしかも楓がいてくれたから大丈夫だったのに佐藤くんと二人であそこまで行かなきゃならないなんてどうしよう。でもこれ以上佐藤くんには迷惑かけられない。私はビクビクしながら佐藤くんの後ろをついていった。

そうだ、耳をふさげばいいんだ。そうすれば嫌な音が聞こえないじゃない。私は耳をふさいで下を向きながら佐藤くんの靴に集中しながら歩いた。

でもそれもほんの数メートルのところで限界がきた。
耳をふさいだら余計に孤独に感じて怖くなってしまったのだ。どうしよう。足が前に進まない。余りの恐怖に歩くことができなくなってしまった。でもこのままじゃ佐藤くんがどんどん先に行っちゃう。

でも佐藤くんは数歩先に進んだだけですぐに気がついてくれた。

「早乙女さん?」

私は私に気がついてくれたことが嬉しくてほっとして思わず涙が溢れてきた。


「え~!?

早乙女さん、大丈夫?」


そう言って私のそばまで佐藤くんは来てくれた。私は自分の立場を忘れて目に涙を一杯に溜めながらすがりつくようにじっと佐藤くんを見つめていた。

佐藤くんは戸惑いながらそっと私の涙を拭ってくれた。

ドキン!私の心臓が大きな音をたてた次の瞬間。

はっ!私ったら。こんなに近くでしかもじっと、そうじっと見つめてしまった。

逃げたくても怖くて足が動かない私はただただ下を向くしかできない。

「ごめんなさい。

私ったらまた佐藤くんのこと見たりして。」

「いや、俺の方こそごめん。

早乙女さんの瞳を見たらなんかほっとけなくなっちゃって。

……、ん? 今何て?」

「こんな私が佐藤くんと何度も目を合わせてしまうなんて。

もし不愉快な思いしてたら、あっでも佐藤くんは優しいからそんな素振りも見せなくて私ったらそれを良いことにちゃんとお詫びもしなくて……。」


「ちょっと待った。一体何の話ししてるの?」

「ですから、同じクラスになってから何度も佐藤くんと目が合って、」

「うん。正直俺早乙女さんと目が合うと何かさ恥ずかしいって言うかそのー、見つめてられなくなるんだよね。」


やっぱり佐藤くんは優しいなぁー。私を傷つけまいとしてこんな言葉で言ってくれるんだもん。

ズキン

でもその優しさが私を惨めにさせてるんだよ。だってほら、自分の口から真実を言わなきゃならないから。だからもう佐藤くんへの気持ちは忘れる。そしてただのクラスメイトになるんだ。


「それは、

…………、

覚えてますか?中学生の時佐藤くんが女の子達と私の横を通りすぎた時の事。あの時彼女達が私の事何て言ったか。

佐藤くんにとっては大した事じゃなかったかもしれません。でも私にとってあの時の事は忘れられないんです。

あの時彼女達は、」

私が言いかけた時、


ぎゅっ


突然目の前が真っ暗になって体が温かくなってきて私の耳にドクンドクン佐藤くんの鼓動が聞こえてきた。


えっ?

私は佐藤くんに抱き締められていた。


「ごめん、あの時俺何も言わなかった。彼女達が酷い事言ってたのに何も……。

ほんとごめん。」


予想もしてなかった。

だって佐藤くんがあの時の事覚えていてくれてたなんて。

「覚えてたんですね。」

「俺あれから何度か早乙女さんに謝ろうとしてたんだ。でも君は俺の事あからさまに避けてるからよっぽど嫌われたんだなって思ってた。

まさか高校 で同じクラスになるとは思ってなかったけど。」

そんなこと、佐藤くんはあの時の事覚えていただけじゃなくて私に謝りたいって思ってくれてたんだ。
高校に入ってからの佐藤くんの笑顔を思いだし胸がきゅんとなる。


「早乙女さん。」

佐藤くんは私の両肩を掴み体を離して私の目をじっと見つめながら、

「あの時何も言ってあげられなくてすみませんでした。」

クスッ

うん。もうじゅうぶんだよ。

「ありがとう。」


佐藤くんが私の手を握り、


「これなら少しは怖くない?」


照れながら私を優しく引っ張って行ってくれる。


「だ、大丈夫です。」

緊張のあまり私の恐怖心は何処かへ吹き飛んでしまった。