由紀先輩に連れてこられたのは、

「中庭…ですか?」

「うん」


部活をさぼったのは初めてで、少し緊張するな…。


「あのね、桐山さん」


不意に、由紀先輩が私の名前を呼んだ。


「何があったか知らないけど、落ち込んでたり、元気なかったりしたら、そういうのは全部"音"に出るんだよ?」

「え、音に…?」

「今まで教えてなかったけど、桐山さんが悩んでる時とか、音でわかっちゃうわけ」


そういえば、なんかテレビかなんかで聞いたことがあった気がする。


"音はその人の全てだ"って…。


「俺はね、桐山さんの音好きだよ」

「えっ!?」

「桐山さんよく音について悩んでたじゃん。美紅(みく)先輩みたいな音出したいって」


美紅先輩とは、クラリネットのパートリーダーで、とってもクラリネットが上手な憧れの先輩の1人。


「だけど、」


由紀先輩は、続ける。

真っ直ぐ、私の瞳を見つめて…。


「桐山さんの音は桐山さんそのものなんだ」

「由紀先輩…」

「つまりは何が言いたいかというと、悩みがあるなら聞くよってことで……ごめん、説明下手だね俺」


少し恥ずかしそうに首に手を当てる由紀先輩を見て、少し胸がざわめく。