それでもポーカーフェイスな先輩に、思わず苦笑してしまう。


「俺、勘はいいからさ」

「いやいや、勘がいいとかそういうレベルの話じゃ…」

「ノリ悪いな、七瀬は。嘘だよ」

「え?」

「ほんとは聞いちゃった。話してるの」



そうだったんだ。


不意に癒月の顔が脳裏に浮かぶ。



今日まで私は癒月に嫌われて、ひどいことをされた。




正直、辛かったし、悔しかったし、なにより悲しかった。



信じてた、とかそんな軽いものじゃない。
言葉にできないようなそんななにかがあったと思う。



私は思わず少し俯いてしまう。



隣の由紀先輩は歩幅を私に合わせてくれているのか、いつもより歩くスピードが遅い。



「ついでに言うと」

「…はい?」



顔を上げると、優しく、でもどこか切なく微笑む由紀先輩と目が合って、思わず足を止めてしまった。



「糸田が七瀬の好きな人の話をしてるのも聞いた」


……蒼くんのこと、だよね。


「そう、なんですか」

「そうなんです」



だからかな、由紀先輩が中庭のベンチで蒼くんのことを言ったのは。



でもそれより…



「…は…」

「え?」

「今は…好きじゃないですよ…」



由紀先輩に今も好きだって思われたくなかった。