「遅いから来たんだけ…ど…」
癒月から視線を私に移した蒼くんは、言葉を濁した。
それから、私を驚いた目で真っ直ぐ見てくる。
さっきの癒月ど同じような表情をしている。
「え、桐山…っ」
意外だった。蒼くんが私の名前を覚えてくれていたなんて。
「…と、由紀?」
「よっ、久しぶり」
「いや、昨日会っただろ」
安定の天然を披露した由紀先輩と、そんな由紀先輩にツッコミをいれる蒼くん。
そういえば、幼馴染みだっけ。
思わずクスクス笑ってしまった私に、2人は微笑んでくれた。
「で、お前らなにやってたの?」
不意に蒼くんが私に聞く。
「えっ…と、」
「そうだ、お前の彼女どうにかしろよな」
「は?」
私が言葉に困っていたところを、由紀先輩はズバッとなんの迷いもなく言う。
蒼くんは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていていた。
そんな蒼くんに気付かず、由紀先輩は進める。
「嫌だからって靴隠して捨てようとするのはどうかと思うから」
「っ」
「は?」
「七瀬のこと傷つけるのやめてって悠斗から言っといてよ」
「七瀬のこと傷つけるのやめて」
由紀先輩が言ってくれた言葉、深い情なんてないのも知っている。
それでも、ものすごく嬉しくて、なんでもないのに泣きそうになった。

