さようなら僕の死神

雪を冷たく感じないのか彼女はただ呆然とした表情のまま僕の顔を見つめた。


「・・・・。初めてのパターンですね。」


「何が?」


「実害を及ぼさないのにいらないと判断される人間も極稀だというのにさらに、生きたくないという。あなた変人ですね。」


「うん、そうかもね。」


対して感情をこめずに告げる。どうでもいいことだった。僕のことなんて。


「大体の人間は、死にたくないがあまりに人生を変えようとする。就職したニートもいた。引退したアイドルもいた。リングから降りたプロレスラーだっていましたよ。」

最後のは本当か疑いたくなるがそこは大して気にしないこととしよう。


「その中に恋を始めたものはいた?」


「いませんね、今のところ。恋をあきらめた者はいましたけど。全部結局何も変えられずに魂を狩りとらさせていただきましたが。」

やっぱりアイドルもニートもプロレスラーも変えられなかった。なかったことにされた。
意味なんてなかった。


なら僕がすることにだってきっと意味はない。ただの僕の自己満足だ。

「じゃあこれは僕のチャレンジだ。生と死をかけた僕のラブコメだ。」


「そんなもの興味がわきません。今までで一番最悪な人生で、最悪な最期で、最悪な仕事ですね。」


ここまで話していて、もう彼女が人か死神かなんてはっきりしている。

彼女は死神だ。そして彼女は嘘をつかない。


「僕にとっては最高の最期だね。最高の人生だね。最高の時間になるね、きっと。」

歩くペースを僕だけが早めた。もちろん彼女は追いかけてなんてくれない。


そして僕は止まる。彼女は僕のことなんて気にせずに歩き続ける。


結果彼女から僕の胸に飛び込んできてほしかったのだが、彼女は僕の目の前でピタリと止まった。


女子にしては身長が高めの彼女の整った顔がクローズアップ。


やっぱりきれいだ。


「やっぱり面白いですね。久我さん。最悪な人生を送っているはずなのに面白い、ずるいです。」


あくまで無表情なのだが彼女は頬をぷくーとふくらました。


かわいいその頬のふくらみを僕は指でつぶした。