さようなら僕の死神

僕はみじめにも泣き続けた。

彼女は笑っていた。ただただ、僕のために笑ってくれた。静かな美しくてかわいらしい悲しげな微笑み。僕はこんな笑みを彼女にこれから求めない。

ただ無邪気に純粋に僕の横で笑ってくれたらな、と思う。これは欲張りすぎる。


だって僕は無表情な彼女を笑わせてしまった挙句、気を使わせてしまった。


ただ何も言わずそばにいてくれる関係。それってとっても幸せなんだな。


ああ、彼女は僕にはもったいない。僕なんかにはもったいない。


そんな死神だ。





「涙は止まりましたか?」


「おかげさまで。」


泣いたのは何年ぶりだろう?小さいころから泣かない子だね、としょっちゅう言われていたためひょっとしたら10年以上泣いていないのかもしれない。

眼が腫れていたい。自分ではわからないがきっと真っ赤に腫れているだろう。それも今は彼女だけが知っている。こんな感覚なんて言うんだろうな。

こんな感情なんて言うんだろうな。ただ、愛しいでは済まないような気がするから。


「あの、私帰ってもいいですか。」


ずいぶんひどい気がする。

「まぁ、待って当初の目的を忘れないでよ。僕とデートの計画をするために話し合うはずでしょ、今日招いたのはそのためなんだよ。」


「これはいい傾向ですね。人生変わりますよきっと。」


「まずそれをやめない?死神っていうよりも恋人として僕に接してほしいんだけど。」


「お友達からお願いします。」

うわっセオリーだな。


「死神という以外に私に名はありませんから、それに貴方が死神と呼ぶこと、貴方の中の私が死神だという認識があること、それがあるからそれは難しいと思えますが。」


かと言って、二月というチャラい男の上司がつけたという名をあまり呼びたいとは思わない。


「君は死神だ。でもそれは僕達の交際に関して何にも必要がない。僕は君を死神と呼び続ける。それが君の名前だというのだから。僕らの交際にはデートではそれは意味をなさないと思う。」


「貴方がそう思うのならいいですよ。では特に重要な用事でないときには死神の業務は入れないことにする、と。」


「お堅く言えばそういうこと。」


「さて、それではデートの話でしたね。久我さん。」

「貴理斗でいいよ。」


グサッとひどく大きい音が耳元でしたと思うと我が家のテーブルに大きな穴が開いていて、そこには鎌が刺さっていた。


僕から言ってなんだが、やっぱり彼女は死神だ。


さて、母さんにどうやってごまかそうか。