終いには何に怒っているのかわからなくなっているけど…フツフツと湧く怒りが止まらないから、ソファの上にあるクッションを八つ当たりのようにバンバンと何度も叩いてる。

そこへチャイムの音が聞こえイライラした気持ちのままインターホン越しで出る。

「どちらさまですか?」

「朝早くから申し訳ありません。本日から隣に引っ越してきました山根 大河と申します。大きな荷物がこちらのドアを通りますので先にご挨拶に伺いました」

しぶしぶ玄関ドアを開けると、胡散臭ぐらいに爽やかな笑顔で立つイケメンがいた。

「………」

落ち着いた声に似つかわしくない20代前半ぐらいの若い男性が、セットしていない黒髪と端整な顔立ちで立っている。イメージと違い一瞬、我を忘れていた。

「…ご丁寧にすみません」

「こちらには男性の方がお住まいだと伺っていたので、ご挨拶にこんな物を用意してしまいました。気に入って頂けるといいのですが…」

聞き惚れるぐらいのバリトンボイスと笑顔に思わず頬が熱くなるも、平静を装い受け取った物は大手ホテルのマークが印された包装紙で包まれた軽い箱。

「ありがとうございます…では、失礼します」

ドアを閉めようと思うのに、立ったままでいる男。

「……」

「何か?」

「いえ…朝から失礼しました」

背を向けようとする男に思わず声をかけていた。

「引っ越し頑張ってくださいね」

なぜ、私はこの時、何か言いたげな表情をする男に笑顔でそんなことを言ってしまったのだろう。

「……ありがとうございます。あの…そちらもお掃除頑張ってください」



なんのことだろうと思いながらも笑顔でドアを閉めた。

そして少し気が晴れた私は、兄さんの脱いだシャツ類を洗濯しようとランドリールームへ行こうと洗面台の前を横切る。

んっ⁈

戻って鏡を見るとボサボサ頭に、顔中ホコリまみれだった。クッションをバンバンと叩いているうちにホコリが出て顔中についていたようだ。

恥ずかしい…

いくら男に幻滅していても、女である以上は綺麗でいたい。

恋愛はしたくないが、いい男の前では特に女でいたいと思うのはおかしなことだろうか⁈

こんな私を見られたと思うと鏡の前で1人で赤面し、何度も顔を洗っていた。

まさか、次の日にまた彼に会うなんて思わずに、私はウップンを晴らすようにその日1日中部屋の掃除を丹念にし、もう、2度とあんなぶざまな格好をしないと誓っていた。