なに、そのダメだし。

「えっと、ちなみに聞くけど…その、男の人が関係を待つって大変なことなの?」

「ふん‥あんなキスしておいてお預けなんて俺なら我慢できない」

「………男としてどうか聞いているの?」

「さぁな…性欲がないのか、よっぽどお前が好きだから我慢しているかのどっちかだろう…まぁ、我慢させているのならお前は小悪魔だよ」

「小悪魔?」

「目の前にある好きなデザートが開けることのできないガラスケースに入っていて食べたくても食べれないのと一緒ってことだ」

「なんとなくわかるけど…小悪魔ってなによ」

「そのまんまだ…同じ男としてお前の男が可哀想になってきた。我慢させ過ぎると浮気されるぞ」

兄さんはソファから立ち、私の頭をポンポンと叩いて部屋の中に行ってしまった。

1人その場に取り残された私…

大河の浮気は心配してないけど、兄さんの最後の哀れそうな表情に、我慢させているんだと改めて実感させられた。

その日から何度か勇気を振り絞ってタイミングを伺うが、なかなか言い出せないでいた。

一緒にいたいって言うだけなのに、意識して言うのと無意識で言うのでは違うし、キスした時に勢いで言おうと思うのに、何も考えられなくなるキスに翻弄されてタイミングを逃すばかり。

こんなことなら、少しは恋愛しておくんだったと落ち込む私…

司に騙された時は、そんなふうに考える事もできず、これからどうしようかと悲しくて必死だった。

今思うと、あの時の私は憧れていたシチュエーションに恋してだけ。

男に抱かれる為に悩んでいるなんて、あの時の私なら想像できないだろう。

仕事帰りの途中、手を繋いでいる大河を見ていると数ヶ月前のいろいろな出来事が脳裏を過ぎり、おかしくて自然と笑みが出ていた。

「何、おかしいんだ?」

「ううん…なんでもない」

「なんでもなくないだろう…言えよ」

「…大河と最初に会った時は、2人がこうなるなんて思いもしなかったのに、今は、大河に出会えて幸せだなぁって実感していたの」

「フッ、そんなことか。俺は最初に会った時からお前が結婚していないなら絶対俺のものにするって決めてたけどな」

初めて聞く爆弾発言に言葉が詰まる。

「美咲は俺の彼女になったことだし、後は一緒に棲むだけ…で、いつか山根 美咲になってもらうけど…」

「………本気?」

「あぁ、だからいい加減悩んでないで素直に言えよ」

「なにを?…」

「一緒にいたいって言うだけで、お前を俺の部屋に連れてくってことだ」

見透かされていたのは悔しいけど…

「大河…朝まで一緒にいたい」

大河の胸に飛び込んだ。