「……やっぱ、そう長く我慢できそうにないかも」

そう言ったかと思うと私の腕をグイッと引っ張りギュッと抱きしめて濃密なキスが始まった。

帰りの車中、ブツブツ文句を言う私。

「もう、無理って言ったのに…」

「聞こえなかった」

白々しく嘘をつく男。

「息するの苦しくて、立っていられなくなるまでするなんて信じられない」

「……クックク美咲がかわいく好きって言ってくれたから我慢できなかった。それに、可愛く反応する美咲が悪い」

「バカ…」

あんな濃厚なキスを受けて、平静でいられる人なんているの?

口の中に性感帯があるなんて知らなかったわよ。舌を絡ませるだけでも気持ちいいのにそれ以上に口の中を執拗に責められて、意識が飛びそうになるのを必死に我慢して、解放されたと思ったら足腰が支えなしに立っていられないなんて……

新しい楽しみを見つけた子供のように大河はキスを楽しんでいた。

もう、触れるだけのキスさえも無理だと思うほど腫れた唇に残る感触に、私の中で何かが変わり始めていた。

密室の車内
大河のバリトンボイスに
ふとした指の動きに
動く顔に
意識せずにいられない。

ドキドキする胸を気づかれないように、わざと声を大きくして話す私を可笑しそう笑う男。

「もう、キス一つで大河に振り回されてこの1ヶ月、真剣に悩んでたんだからね。私からキスするまでしないって言って、抱きしめてもくれなかったし、好きっても言ってくれないから嫌われたのかなぁって…それで、目も合わせてくれなくなるし、口も聞いてくれなくなって、もう、無理なのかもって」

指を折っていく私の手を取り

「振り回されたのは俺の方だって…抱きしめてキスして好きだって言って、一緒に過ごしたかったのに、キス一つを拒んだのは美咲だろう⁈だから、ちょっと意地悪するつもりだったのに、日が経つにつれて意地になってた。美咲が俺を見る目が泣きそうなのわかっていながら、悩めばいいとも思っていた」

「……バカ…おかげで悩んだわよ」

「俺も墓穴掘って悩んだけどな…でも、こうしてまた、美咲に触れられた」

「付き合う前から抱きついてきたり、キスしてきたり、好きだって言ってくれたくせに……してくれないんだもん」

ぶっ、あははは

「してほしかったんだ⁈」

「ち、違うわよ。人の許可なくするくせに大河がそうやって意地悪するから、悩んだなんて信じららないって言ってるの」

「どうやったら信じる?」

突然、真剣な表情の横顔に甘い声でつぶやくからドキンとなる。