周りからの冷やかしのヤジを無視して、彼女の唇を堪能する。

久しぶりに触れた唇の感触に頬が緩んでいく。

彼女の艶めく表情を誰にも見せないように頬を両手で挟み、唇を啄んで下唇を甘噛みした…

まったく、よくこの1カ月以上触れないでいれたと自分自身に関心する。

コホンと咳払いする天宮。

「いつまでキスしているんですか⁈いい加減離れてくださいよ。振られた僕の身にもなってもらいたいものです」

おどける天宮の声にみんなが笑いだす。

今さらながら大勢の前でキスしてしまったことに赤面する美咲が、俺の背に隠れた。

「振られちゃいましたが、このように横から奪うのもありですからね。その前に…お2人の熱々ぶりは仕事をする僕の邪魔なのでどこでも行っちゃってください」

シッシッと手で俺らをはらう天宮の姿に
激励のかけ声と『俺も告白するぞ』と宣言する声、中には『僕の溝口さんを幸せにしてあげてくださいよ』美咲ファンが声をあげる。
誰の美咲だって…イラっときた時に
『頑張ってこいよ』
声のする方へ拳を高くあげ満面の笑みを浮かべた。

美咲の手を引き、副社長に大きく声をかける。

「石井さん、俺と彼女は消えるんで後は任せます」

口笛を鳴らすヤジの中、石井さんは笑顔で手を振り、鈴木と森井がニヤついていた…

やられた…あの日の不可思議な言動が繋がった瞬間だった。

「それでは、社長の告白に負けない告白をしたい方は手を上げてください」

美咲を連れデッキから離れ、天宮の声が聞こえなくなっていた。

あの日…
キスを拒んだ彼女をちょっといじめるつもりだっただけが、ちっともキスしてくる素振りを見せない彼女に、こっちも意地になっていた。

触れられる距離にいながら、触れたくても触れられないもどかしさにイラついていたある日、美咲達が女子会をするからこっちは男子会をしようと言い出した鈴木の提案で男だけで飲むことになった。

酒の勢いなのか突然、天宮が…

「最近、大河さんと美咲ちゃんお互いよそよそしいし、美咲ちゃんとどうなっているんですか?」

「お前に関係ないだろう」

「関係なくないですよ。俺、まだ、美咲ちゃんのこと諦めてないんですよね」

はっきり、美咲は俺の女だと言い切ればいいものを、ギクシャクしだした2人の関係に不安があったところに天宮のセリフ…

何も言い返せない俺にふてぶてしく宣言する天宮。

「そうですか?それなら美咲ちゃんに告白していいですよね」