「何の誘惑?」

「んっ⁈内緒…」

大河に向きなおり、胸を押して距離をとる。

手のひらに感じる男の肌に頬が染まる。

「もう…服着てよ」

頬を赤らめたまま大河を突き飛ばす。

クスッと笑う大河に洗い物を再開しようと背を向けて

「私、家に帰るんだからね」

突然、焦る男は背後から私の腕ごと抱き
しめてきて、覆いかぶさるように体重をかけてくると服越しでも感じる男の温もりにドキンとして身動きできない。

「…重いってば…」

強い口調で抗議しても聞き入れるつもりがないのか、男はぎゅっ、ぎゅっと抱きしめる腕に力を入れた。

「帰したくない…美咲は俺といるのいやなのか?」

背後から覗くように見つめて、切ない声でウルウルとすがる子犬のように見つめてくるから見捨てられない。

それに…帰したくないって言われて嬉しくないわけがない。

「……いやじゃ…ないよ」

男はニコニコとした顔でご機嫌になる。

「…よし、着替えて出かけるぞ」

「私の意見はないの?」

「一緒に出かけたら聞いてやるよ」

さっきまでの男とは別人のように、俺様に戻った大河は腕の拘束を解いて、再び私の腰に手を回す。

私は、ため息をつきながらもどこか嬉しい気持ちで洗い物を素早く片付けた。

着替えに戻ることにした私を大河は1人きりにさせてくれなくて、兄さんが仕事に出て留守なのをいいことに家の中にズカズカと入ってきた。

「ここで待ってるから着替えてこい」

ドサッとソファに座り、くつろぎだす大河。

大河を待たせるわけにもいかず、慌てて服を選んでメイクをした。

ノースリーブのブラウスをタックパンツにインしてカーディガンを羽織った。

部屋から出た私に振り向き、満足気に微笑む。

「…このまま閉じ込めて誰にも見せたくないぐらいかわいい」

大河からの褒め言葉は何度聞いても頬が染まる。

「でも、ちょっと露出し過ぎだぞ。他の男の目もあるから必ずカーディガンを羽織ってろよ」

ちょっとした偏愛に恥ずかしいくなる。

そういう大河だって、いつもスーツの下に隠している肉体を所々出しているから目のやり場に困る。

白のタンクトップの上に紺色の細かい水玉柄の七分袖のシャツを羽織り、足の長さを強調させる細身のジーンズが似合ってて、大河こそ誰にも見せたくない。

そう思うようになるなんて大河に毒されているのだろうか?