言葉もなく歩く男の後ろ姿に、不安を感じてしまう。
どうして何も話さないの?
あんな兄さんがいて幻滅した?
男嫌いの理由がわかって馬鹿な女だと思ってるの?
私のこと嫌いになった?
この人に嫌われたくないと思っている私の胸の内は、いろいろな感情が渦巻いて胸が痛くて、苦しい。
どうして、こんなに痛くて、苦しいの⁈
感情をコントロールしようとずっと自分の胸に手を当てていた。
マンションの部屋の前まで来ると、離れる手に寂しさを感じ、まだこの手を離さないでと心が叫ぶ。
だけど…心と裏腹に私の一言は…
「社長‥おやすみなさい」
鞄から鍵を取り、ドアノブに鍵を差しこもうとした時
「誰が、帰っていいって言った⁈」
男が自分の部屋のドアを開け、顎で『来いよ』と促す。
それでも戸惑っている私の手を再び掴み、引っ張られるように男の部屋の玄関に足を踏み入れた。
その瞬間、私をぎゅっと抱きしめる腕が嬉しくて、男の胸に手を添えて頬を寄せる。
私の頭を優しく撫で、頭上から優しく囁く声。
「俺には、お前だけだ。好きだ…美咲」
短い言葉なのに、男の思いが伝わってきて頬を涙が濡らす。
信じれる…
この人なら…
そう思うのに…心の傷が意外と深すぎて心をさらけ出せない。
私の顔を覗き、困ったように笑う男が涙を指で拭っていく。
「ゆっくりでいい…待つって言っただろう⁈俺を信じれるまで、ずっと好きだって言い続けるから泣くなよ」
彼の優しさが嬉しくて更に涙が溢れた。そして、照れ臭くて彼の揚げ足をとる。
「……さっき、は、待てないって言ったわ」
「……あぁ、待てない」
「言ってることがちぐはぐだわ」
「フッ、そうだな。でも、待てないこともあるんだから仕方ないだろう⁈」
そう言うと私の顎を捉え口角上げ笑った男は、私の唇にそっと唇を重ねた。
数時間前のキスの余韻が戻ってきて、重ねるキスだけじゃ物足りない。
自ら男の唇を啄めば、男は優しく頬を両手で挟み角度を変えてキスを深めてくる。
舌先が歯列をノックして、開けるように促すから少し開くとグッと頭を押さえられた瞬間に舌を絡めとられ、焦れったく舌先だけでチロチロと撫で回す動きが余計に私を煽る。
「……ぁ、もっ…と、して」
さっきのように、強引に私を求めてよ。
焦れったくて…
でも、気持ちよくて…
もっとしてほしいと淫らに求めてしまう。
そう願わずにいられない程、男は私を焦らせる。



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