舌打ちする男に

「…何が言いたいんですか?」

私の頬に手を添え、シルバーフレームの眼鏡の奥で色気を含んだ瞳が妖しく光る。

「お前は、自分が思ってるよりも魅力的だってことだ。気長に待つつもりだったが……早く、俺のものになれ」

男からの甘い賛辞と甘い命令に心がざわついたが…

「……そんなの無理。どうせ、あなたも女を堕とすまでが楽しいのよ」

「あなたもって何だ⁈決めつけるな…そいつのせいで男嫌いになったのか?」

鋭い眼光に見つめられ、たじろぎながら壁際まで退いていた。頬にあった男の手が離れていたことに寂しさを感じている自分に戸惑う。

私の肩を掴み

「まさか…まだ、そいつが忘れられないのか?」

そんな訳ないでしょう。
その男とは、血が繋がった兄さんなんだから…

「どうなんだ⁈」

忘れられないといえば、この男から逃げられるかもしれない。

だけど…

「……んっ」

答えを迷う間に男の唇が、私の唇に触れていた。

嫌悪する男という生き物なのに…男の手にすがりキスに応えている。

今朝、この部屋で触れた軽いキスとは違い、押しつけてくる唇は男の感情が荒々しく滲み出て、あらがうことを忘れるほど熱く触れる唇に男の本気がみえた。

「忘れさせてやる」

勘違いした男の唇が離れただけで、腰を両手でぎゅっと抱きしめてくる。

離れない距離に男を見れば

「…その顔、俺以外の他の男にしてみろ…無事で済まさないからな」

恐ろしい顔で言ったかと思うと、微笑んで頬を軽くつねられた。

「…ッ」

「あっ…天宮には、先手を打っておかないとな」

何のこと?
と思っていれば…腰にあった手が離れ、部屋のドアを開けて天宮くんを呼ぶ。

なに?

「大河さん、なんですか?」

ギロッと睨む男に天宮くんは言いなおす。

「社長、なんでしょうか?」

「お前、マンネリ化してきたから新しい事がしたいと言っていただろう⁈それで今、彼女と話していて思いついたんだが、さっきお前が彼女に交際を申し込んだように、昔、流行ったお見合いパーティーで最後に男が気にいった相手に交際を申し込み、カップルになるかは女の返事しだいっていうそれを、今風にして盛り上げてみたらどうだ⁈…例えば、イエスならキスするとか…」

えっ…知ってたくせに言わせようとするなんて…性格悪。

なんて奴…

「キスですか⁈」

「イエスが握手なんてつまらないだろう⁈」