会社の自動扉の手前で言い忘れたように

「百合子さん…彼女と僕は外出して来ますので何かあったら携帯に連絡お願いします。真鍋様をお願いしますね」

「はい…」

「では、行きましょう」

社長に促され、お昼を食べ損ねたとがっかりしながら会社を出た。

エレベーターの中に数人が乗っていて、なぜだかホッとする私。

だって、さっきとは別人のようで社長の笑みが今はとても恐ろしく見えるのだから…

無言のままエレベーターは上昇する。

どこへ?

そこは、最上階にある展望ラウンジで、空が広がり雲の上にいる感覚になっていた。

そこは、オープンスペースの中に一角だけブーススペースもあるようで、夜に来れば綺麗な夜景見ながらお酒を楽しめるだろうと辺りを見回していると、社長が店員らしき人物に声をかけ、案内されたのは2人がけのゆったりとした黒革のソファが1つに、窓に隣接されたガラステーブルがある個室。

「お腹空いただろう?飲み物と一緒に頼むといい…」

テーブルの上からメニューをとると私に
受け取るよう乱暴に投げた。

慌てて両手で挟んでキャッチしている間に、ドサッとソファに座り不機嫌そうに足を組んで外を眺めている男。

はぁ〜、いったいなんなの⁈
頼むわよ。
海老天丼、食べ損ねたんだから遠慮なく食べてやる。

メニューをパラパラ見て、店員を呼ぶと
春野菜の和風パスタとカフェラテを注文した。

「社長は、どうされます?」

「ホット」

店員は『かしこまりました』というように微笑んで行ってしまう。

2人きりにされた空間はとても居心地が悪く、外の景色を見ながらどうしようかと悩んでいれば、男に腕を引っ張られバランスが崩れてしまった体は、男の思うままに操られ、その胸に飛び込み抱きしめられている。

「……社長、…離してください」

「離すかよ。くそッ、あの男、会員じゃなかったら痛い目にあわせてやるのに…」

苦々しく呟き、真鍋様が掴んだ私の手首を男は自分の口元まで運びチュッと生々しく音を立て、触れる唇の感触が消えないうちに何度もキスを落としていく。
その行為に言葉も出ず、そこから体中に走る甘い痺れに、クラクラとめまいを起こし男の肩に頭を預けてしまう。

すると手を拘束したまま甘い声で囁く。

「俺以外の男が触ったから上書き」

ガバッと頭を起こす私に妖しく視線を絡めてきたまま、もう一度、唇を触れた。