ゾクッとする笑顔で百合子さんに無理強いをしだした。

「申し訳ありません、真鍋様。私達、スタッフとお客様とのセッティングは信頼関係を壊しかねませんので、会員様の中から…」

「お互い合意ならいいじゃないか…君も俺と付き合いたいと思うだろう⁈」

ちょっと、顔がいいからってこの上から目線はなんなの⁈
いったい何様…
その前に、その手を離しなさいよ。

こんな奴、1番嫌いなタイプなんだから…

心の中でベーと舌を出している私。

なかなか返事をしない私に

「あれっ、もしかして俺のこと知らないとか⁈けっこう、経済誌に出てて有名なんだけどなぁ…」

「無知で申し訳ありません」

あなたなんて知らないわよ…

やっと出た言葉に気を良くした男は、スーツの内ポケットから名刺とペンを出すと何やら書きだし、掴んだ私の手に紙を握らせる。

「俺を知らないなんて新鮮…君、気に入ったよ。これプライベートだから連…『真鍋様、おいでとは知らず失礼しました。先日の方とはお話がうまくいきませんでしたか?』」

男の話を中断したのは社長の声だった。

「あぁ…見た目がいいだけで中身空っぽでさ…俺の金しか見てないんだよ」

「それは、残念でしたね。百合子さん、真鍋様のご意見に合う会員の方を一緒に選んであげてください」

「はい…」

社長が出てきてホッとしている百合子さんは、パソコンを開いた。

「百合子さんにも言ってたんだけど、この子を気に入ったから他の子はいいわ」

今だに、私の掴んだ手を離さない真鍋様の手を一瞥して、恐いくらいの笑顔で悪びれもなくとんでもないことを言い出した。

「真鍋様、申し訳ありませんが彼女は私のです。あなたには差し上げられませんよ」

百合子さんも真鍋様も私と社長の顔を交互に見始め、言葉もなくあ然としているようだ。

私だって、何を言われたのか理解するまであ然としていた。

なんてことを百合子さんの前で…
この男は…怒りでワナワナと震える体。
それと同時に、頬が真っ赤になっているのがわかるぐらい熱い。

「……」

「……真鍋様、彼女の手を離してくださいませんか⁈」

「…あっあぁ」

社長の笑みの中に何を見たのか?
さっきまでの強引な態度はなくなり、真鍋様はすんなりと手を離してくれた。

「溝口さん、鞄を持ってこちらへ」

「あっ、はい」

この男から救ってくれた社長の微笑みが天使に見え、呼ばれるまま後ろをついていく。