いつの間、部屋に戻ってたのか氷の代わりに小さな保冷剤を持ってきていた兄さん。
「山根さん、これで申し訳ないですが冷やしてください。美咲、山根さんが迎えにきてくださったんだ…打ち解けるチャンスだぞ。俺は先に行くから2人で通勤しろよ」
「えっ…」
「山根さん、急ぎますので先に失礼します」
じゃあと片手をあげてさっさと行ってしまう兄の背を睨んだ。
裏切り者…
車を買ってもらうからって、妹の気持ち無視して差し出すなんてあんたは悪魔か…
「さて…お兄さんもああ言って行かれてしまいましたし、行きましょうか?」
痛がっていたあなたはどこに?
爽やかに笑顔を向けてくる目の前の男。
えっ…やだよ。
と後退る私。
だけど、久しぶりに履く高さのあるパンプスにバランスを崩して…
あっ…倒れる。
ドサッと足下に落ちる何かの音。
あれ?
抱きかかえるように腰と肩に回る腕。
今にも唇が触れそうな距離で整った顏の男がホッとしている。
「大丈夫ですか?」
今の状況を瞬時に理解できた私だけど…
整った顔が近すぎて言葉も出ずにコクコクと頷くだけしかできない。
転びそうになったことが恥ずかしいのか、整った顏に見つめられて恥ずかしいのかわからないが、顏が赤くなっているのがわかる。
だって、顔がのぼせたように熱いもの。
「それはよかった」
微笑む男が体を起こそうとしてくれるから、彼の腕に掴まって起き上がるけど…
腰と肩にある手は離されているのに、なぜか壁と彼に挟まれている。
戸惑う距離に男の胸を押すように手を伸ばす。
クスッと笑う男が突然屈んで私の足を触る。
正確にいえば、脱げたパンプスを履かせてくれたのだ。
壁に寄りかかっていたから片足でも立つことができていたんだとわかって、パンプスを履かせてくれた男の謎の行動が理解できた。
…一言言ってくれればいいのにとモヤっとしながらも
「ありがとうございます」
「いいえ…どういたしまして」
優しい口調の中に艶っぽい甘い声、屈んだまま私を見上げた時の笑顔は屈託のない表情なのに、見つめる視線はまるで獲物を狙う男の視線。
目力が半端なくて、ドキドキが止まらない。
今、この場面でキスされても抵抗できないかも…
なんて、私らしくないことを考えていたら、いつの間に立ち上がっていたのか?男の顏が目の前にあって
「その顏は、僕以外の前で禁止ですよ」



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