誘惑はキスから始まる


「俺も…お前、何時に出る?」

「9時頃だけど…」

途中まで一緒に行くか?」

「……いいけど」

「じゃあ、9時に出るからな」

時計を見れば、8時半前
途中になっていた洗い物を急いで片付けて、洗面所に向う。

顔を洗顔して歯を磨き、髪をブローして自分の部屋へ。

時計を見ると既に10分経過

元々、兄と一緒で顔立ちがはっきりしているから化粧に時間がかからないのがいい。

メイクもそこそこに新しく買ったばかりのパンツスーツを着た。

鏡に映る自分に、なぜスカートにしないのかって聞いて見た。

あの社長を牽制するのによ。

私は、仕事をする為にあの会社に行くの…だから、男に隙なんて見せない。

「美咲…仕事しに行くんだから男と仕事以外で関わっちゃだめよ。男なんて信じちゃいけないんだからね」

鏡の自分に呪文のように呟いた。

「美咲…まだか?」

部屋のドアの外で兄さんが呼ぶ。

「今、行く…」

鏡の自分にファイトと励まして、ドアを開けた。

「お待たせ…」

「……パンツスーツかよ」

血の繋がった兄なのにがっかり顏。

「何よ…」

「もっと、女らしく着飾れよ」

「仕事しに行くんだから、着飾らなくていいの。それに…」

婚活するわけじゃないもの。

「どうした?」

「なんでもない」

と首を振る。

行きましょうと兄さんを促し玄関に向かった。

ガチャンとドアノブを回し勢いよくドアを開けたらドンと当たる音。

「イタッ…」

思いっきり当たったようで屈んでいる男性に

「すみません…大丈夫ですか?」

「おい…美咲。何やってるんだよ。申し訳ありません、お怪我ありませんか?」

立ち尽くす私を追い越して兄さんが後ろから男性の様子を伺う。

「……だ、大丈夫です。溝口さん、気にしないでください」

よく見ると

隣の住人

山根 大河だった。

「しゃ、社長…すみませんでした。大丈夫ですか?」

駆け寄り、社長の赤くなっているおデコを無意識に摩っていた。

「おデコをぶつけるなんて…いったい何してたんですか?」

「溝口さんと一緒に通勤しようと思いまして、呼び鈴を鳴らそうとしたところ勢いよくドアが開いたんです」

はぁっ⁈
なんで一緒に通勤しないといけないのよ。

「どうして?」

「今朝、溝口さんが素っ気ないからですよ。一緒に働くのですから打ち解けないといい仕事ができないでしょう⁈」