「あの、香織先輩!」


「はい?」


香織先輩は、商品である服の形を整えていた両手を止めて、あたしを振り向いた。


「ちょっと聞きたい事があるんですけど……」

あたしは なるべく遠慮がちな口調で言う。


「なぁに?」


「先輩っていつも、口紅だけ付けてないですよね」


「え?」


「他の部分の化粧は完璧なのに… どうして唇だけは、何にもしないんですか?」


すると、それまで穏やかだった香織先輩は、急にキッとした表情になってあたしを睨んだ。