ぼくのまわりにいる悪い人とぼくの中にいる悪い人

『いらっしゃいませ~』


いつもの事だが元気の良い声がこだまする。

これだけ世の中が不景気と言われていて、周りの飲み屋がバタバタ閉めているが、この店が保っているのはこの元気なのかもしれない。


今日は忙しそうだ。

『ぶん太、ゴメンゆっくり飲んでて、あとで誰か着けるから…』


『おぅ、気にすんな』

弥生がおしぼりを持ってきながら言う。

カウンターの端が空いていたのでそこに座る。


ママが時々相手はしてくれたが店は終わり頃まで満卓の状態だった。


『なんか今日外しましたかね…』

『お前誰かいたんだろ?タイミング悪かったな…』


野口は目当てがいて飲みに来たが、残念ながらその娘が付く事はなかった。

しかしそれなりにママを中心にいろんな娘が相手をしてくれ、この日は野口も諦めて先に帰った。


閉店は1時だったがこの日は30分延長しての店じまい。


ぼくも珍しく最後までいた。


『今日はゴメンね~弥生もつけられなくて…これママのおごり!も少し飲んでいきな!』


ママは焼酎のボトルを出した。


その焼酎には他の客の名前が書いてある。


『大丈夫!この人はもうこない客のボトルだから!』