ぼくのまわりにいる悪い人とぼくの中にいる悪い人

今日のミンクは暇だった。


平日は最近暇らしい。


ボックスに僕ら3人とカウンターに2人、それだけだ。


『最近暇か?』


『う~ん、早い時間はいたんだけどね』

弥生が答える。


『そーいえばさ、あのカウンターの端っこに座ってる人、ママのこれじゃないかな?』

小指を立てながら
弥生の勘ぐり大作戦の始まりだった。


ロマンスグレーのよく似合う紳士風な感じではある。


『まぁ、ママだって女ですからねぇ…』
野口が言う。


『そーいえば野口君って今まで何やってたの?』


『ホスト!とか?』

野口の隣に座る女の子が言う。
健は笑っているがホストと言うのは無理もない。

かなりの男前だからだ。

ぼくも実際には聞いた事はなかった。


『んな、前の事はどうでもいいじゃんかよぉ、漁師だよ漁師!』

『オイオイ!健さん、どうせならもっとかっこいい仕事にしてくんねぇ、漁師って』

『えっ漁師をバカしちゃいけねぇよ、あれは男の仕事だな、中途半端な人間にはできねぇよ』


健がそう言うのは説得力があった。

なぜなら健の親父は漁師だったからだ。しかし、嵐の夜に仲間の漁師を助けに海に出て亡くなったらしい。