しかし、私も大概だ。
こんな良識のない男なのに、見ていると不整脈が起こる。
先程のように顔が赤くなって、工藤椿に心境を悟られていないと良いけれど。
「立ってないで、座ったら?」
私が悶々と考えていると、工藤椿はポンポンと軽くコンクリートを叩いた。
私に隣に座れっていうのか。
冗談じゃない、今でも距離が2メートルくらいしかないのに。
そんなことをしたら、鼓動だけで意識してることがバレてしまう。
「大丈夫。ここで問題ないです」
「……ふーん、まぁいいや」
あれ、なんだか声色が低いような。
そう思っていたら不意に立ち上がった工藤椿にグッと腕を引っ張られた。
突然のことにバランスを崩すとふわりと包み込まれるような感触、訳が分からない。
「俺としては、こっちの方が都合いいしね」
「………!?」
理解した。
私は今、工藤椿の腕の中にいる。
初めて男の人に包容される事態に頭がついていかなくて、頭が真っ白になる。
そのくせ心臓だけはちゃっかり働いていて早鐘を打つばかりだ。
「……あれ、固まっちゃった」
そう言って可笑しそうに笑う工藤椿に私の中で、何かがキレた。