今まで、関心が薄い私でさえも名前くらいは知っている校内の有名人である工藤椿を見たことは一度もなくて。
見たいとも思ったことはなかったけれど、あの綺麗な瞳に自分を見透かされてるような感覚に陥った。
知らないことは、怖いことだ。
そんな風に思うのも初めてで。
「……みっちゃん?」
「……ごめん、那月。私先に戻る」
私の様子が気になったのか、掴む手を緩めてこちらを伺う那月の手を解いて、人垣とは反対の方向に一目散に走った。
─────……
私は、何事にもあまり興味を持てない人間で。
それを自分でも理解していて。
心を動かされる何かが起こりうることを予期してもいなかった。
……この動悸はなんなのだろう。
あの何を考えているか分からない瞳に捉えられた。
時が止まったように感じた。
私の中で、ゆっくり動きだす。気づいていく。
まさか、私にこんな感情があっただなんて。
「はー……落ち着け私。」
「何を落ち着かせるの?」
人気のないはずの薄暗いこの空間に、落ち着いた声色が混ざる。
ギョッとして振り返ると、先程まで注目の的だった工藤椿が立っていて。
この状況が楽しいのか、口の端に笑みが浮かんでいる。
「あははっ、そんな反応もするんだね。浜野さんって」
明らかに狼狽えてる私を見て更に笑みを深くする工藤椿は、やっぱり綺麗な瞳をしていて、それが何故か金縛りのように私を封じる。
「なっ、何なんだ。何で此処にいるんだ、……ていうか私の名前……」
なんで知っている?
私は声が上手く出せないまま、後ずさった。
「何その反応、傷つくなぁ」
そう言いながら、あっという間に距離を詰めた工藤椿は有無を言わさず私の腕を掴んだ。

