私を見て、ニコッと笑うと
「行こ! みっちゃん!」
「は? え、……ちょっと待って!」
何を思ったのか私の手をぐいっと掴んで声色のする方へ駆け出したのだ。
私が抗議の声を上げると私を引っ張る那月がこちらを振り返って悪戯っぽく口角を上げるだけ。
どうやら、止まる気はないらしい。
私は掴まれてない方の手を額に当てた。
程なくして、女の子が群がっている隣のそのまた隣の教室付近に到着した。
すると、一人の細身の男子が指定のカバンを肩に掛けてゆったりと歩いてくる姿が見えた。
それと同時にどんどん沸き立ってくる女の子特有の高めのボイス。
隣にいる那月も例外ではない。
うるさ……、
というか昼間から登校とか、社長出勤ですか。
いいご身分ね。
と、心の中で毒づいてみる。
工藤くんはねー、理事長の息子なんだってー!と隣で言ってくる那月の情報もこの際どうでも良くて、早く教室に戻りたいとそればかりを考えていた。
が、那月が私を逃がすまいとして手を強く握ってくるので逃亡しようにも出来ない状態で。
私もこの中の一員だと思われるのも癪で、歩いてくる男を思いの限り睨みつけた。
この人の多さだ、バレることはないだろう。
そう思っていた矢先、ふと彼と目が合った。
何を思ったのか目を細めて、少し口元が笑っているような気がして。
え、こっちを見ている……?
いや、まさかね。
そうも考えたが睨んでいた分、なんだか居心地が悪くなって、思わず目を逸らした。