「いい加減にしてよ!」
私はいつになく、もしかしたら初めてかもしれない調子で声を荒げた。
それと共に力いっぱい工藤椿から逃げる。
もともと包容が強くなかったので、あっさりと抜けられた。
悔しさで涙が滲む。
そのくせ、こんな奴のことが嫌いになれそうにない自分にも腹が立った。
「……どうしてこんなことをするの? あなたは難攻不落と言われているんでしょう? そんな人がどうして……」
工藤椿を知らなければ…私は心を動かされることなく、穏やかに過ごせたはずなのに…
「みちるでも知ってるんだね、その異名。」
視線を伏せて、工藤椿の髪がサラリ零れた。
風がないから、その下でどんな表情をしているのかは計り知れない。
「別に、難攻不落だなんて誰がつけたかは知らないけれど、俺だって普通に恋くらいする。」
そう言って、私に視線を向けた。
その瞳はやっぱり透明感があって綺麗で。
私を、狂わす。
「……初めてなんだ、こんな気持ち」
そう頼りなさげな声色に、潤んだように見えたその瞳に引き込まれるかのように工藤椿に近づいていた。
やっぱり、工藤椿の瞳には不思議な力がある気がする。
そっと触れようとした瞬間……
「……捕まえた」

