登校初日の放課後。私は街を歩いていた。


行きは車だったし、時間もなかったから、あまりゆっくりすることはできなかったけど、帰りの今ならゆっくりと見物することができる。


ラッキーなことに、今日は早帰りだったから時間を気にすることなく自由に回ることができる。


ああ、なんて素晴らしいんだ‼︎


スキップをしそうなくらいテンションが上がっている私を、周りの人は何故か可愛そうな目で見ていたけどそんなこと気にしない!



らんらん気分で、手頃なカフェへ入っていった。



【運命を狂わせた出会いのKiss】



右手にお土産、左手にお土産。
学校のカバン、自分の服の入った袋をそれぞれ左右の肩にかける。


あたりもだいぶ暗くなってきたことだしね、そろそろ帰るか、とスキップを踏み始めて少し経った後。


親切なおじさんから「危ないよー」と言われたけど「大丈夫!」の一言でスルーする。


即興で作ったナゾの鼻歌を歌いながら、家への道を進んでいく。


しばらくして、あたりを見回してみると、すっかりと暗くなっており、数メートル先がギリギリ見えるくらいになっていた。


流石にやばいなと思った私は、近道をすることにした。


その道は、人通りが少なくて、電柱が無いから犯罪のよく起こる場所だ。


連続誘拐事件とかなんとか言ってテレビでニュースになっていたのを何回か見たことがある。


それでも、安全な道を通って家に行くよりも、その道を通っていった方がだいぶ時間の短縮になる。


意を決した私はその道へ入っていった。






さっきの道とは違い、全く明かりのない道は恐怖を煽るばかりだった。


人の家の裏側なはずなのに、まったく人の気配が感じられない。それどころか、本当に人が居るのかと、疑ってしまいそうなほどに静まり返っている。


段々怖くなってきた私の頭に、引き返そうかと言う考えまで出てきた。



こんなところ早く抜け出して、早く家に帰りたいのに。


そうしたくても、それが出来なくて、段々と心の中で大きくなっていく恐怖心に怯えるだけだった。


そんな時だった。
視界の隅で、何かがキラリと光って見えたのは。


「………っ!!!!!」



そちらの方に目を向けてみれば、なんとなくだけど見える人影。



それはゆっくりと、でも確実にこちらの方へ向かってきている。


怖くて怖くて、視界がぼやけてきた。


頬を伝う雫に、それが涙と言うことが分かる。


こんな事なら迎えを呼べばよかった。


今更後悔しても遅いのに、頭にはそんな考えばかりが浮かんでくる。


近づいてくる人影から逃げるように、ゆっくりと後ろに動かしていた足が壁に当たった。


振り返ってみても、そこには高い壁があるだけでとても逃げられそうにない。


強く、ギュッと目を瞑ると祈るように、心の中で叫んだ。


『神様っ!!!』



「……?」


目をつぶってからしばらく経ったというのに、全く何もされていない。


疑問に思った私は片目を薄く開けて見た。


ドサッ


「…っぅお!!」


ずっと目の前にいたナゾの影が、私と向かい合わせの状態で倒れてきた。


突然の事でつい受け止めてしまったけど、どうやら、結構な勢いがあったらしく、押し倒されるようにして倒れてしまった。


「いっふぁ…」


思いっきり背中と頭をぶつけた私はとりあえず起き上がろうとつぶっていた目を開けた。


「!!」


かなり近い距離にある、綺麗な顔。…って、そう言えばなんか私さっき言葉変だった気が………。


!!!


ん。ちょっと待て。うん。落ち着け。一旦整理しよう。うん。


とりあえず、落ち着くために目を閉じる。
じゃないといろいろ考えちゃうからね。うん。


ハイ。じゃあ、私はさっきまで何をしていた?


買い物。とゆーかショッピング。


うん。そうだね、その後は?


えーっと、暗くなってきたからそろそろ帰ろうかなーって思って歩いてたら、思ったより時間がかかるから近道しよーと思って、裏道に入った。


そうだね。それからそれから?


えーっと、、変な影が出てきて、怖くなって目をつぶってたら、なんか変な影が倒れてきて、私もそれに巻き込まれて、一緒に倒れた。


うん。そうだね。


それで、目を開けてみたらなんかカッコいい感じの人のドアップがあって、ん、そう言えばなんかさっき声出した時可笑しかったなって思ったら、なんか唇に不思議な違和感があるなって思って、考えた結果が《キスしてね?》になった。


うん。そうだね。そーなったね。んじゃ、確認してみようか。


そろ〜っと、目を開けてみる。
側には相変わらず綺麗な顔。‥じゃなくて、どうやって調べよう。


てか、息苦しいんですけど。
鼻でするのもなんか嫌だし。


え、ちょ、本当にどーしよ。
そっか!口ですればいっか!


とりあえず口を開けてみる。


…塞がってるね。


キスしてましたね。この綺麗な人と。


いろいろと頭の中が整理できて落ち着くと、とりあえず離れようと言う考えに至る。


綺麗な顔の人の顔を持ち上げて、退かそうとする。…が!


私のその手を、また別の手が握り、ピシッと固まる。


こんなところにいる人なんて、私と目の前の人しかいない。


その人の手が動いたという事は、目が覚めたという事。


自然と固まってしまうのは、不可抗力だ!


完全に石状態になっている私をよそに、顔の綺麗な人は、自分で起き上がった。


けれども私は寝っ転がったままなのは変わらない。しかも、何故か綺麗な顔の人の手が、左右の耳の側にある。


なんで?


慌てふためいている私が面白いのか、綺麗な顔の人のアイスブルーの瞳は弧を描いている。


そして、段々と近づいてくる顔。


え、なに。また!?またですか?ちょっと待って!待って待って‼︎‼︎!


・・・・・。


ナニモコナイ。ナンデ?カンチガイカ?


片目を薄く開けてみると、綺麗な顔の人が声を抑えて笑っていた。


口元を手で押さえて下を向いているからよく分からないけど、体が小さく震えているし、「…ふ、…‥っく」とか聞こえるから、多分笑ってる。


散々人を驚かして置いて、一人で爆笑するとかどんだけSなの!!あ〜、なんか、どこぞのクラスの担任思い出してきた。


すっごくイラついてきたから、帰ろうと立ち上がり、荷物を持ち上げる。


早く家に帰ろう!

そう思い、前を向いた。



絶句。


まさにその一言がピッタリだろう。


何故ならそこに道はなく、綺麗な花畑と綺麗なお城が見えたから。