父親が娶ったのは、美しくもどこか妖しい雰囲気を醸し出している女性でした。
二人の美しい娘たちと家にやって来たのです。


「ようこそ、我が家へ」


父親が継母に笑顔で言うと、継母は満足そうに笑いました。


「本当にこんな立派な家に住んでもよろしくて?」


「勿論だよ。部屋だって沢山あるから、ドリゼラやアナスタシアも気に入るはずさ」


「まあ、娘たちのことまで気を配ってくれるなんてお優しいのね」


仲睦まじく談笑していると、不意に義姉の一人のドリゼラが口を開きました。



「ねえお父様、シンデレラはどこにいるの?」


その言葉を聞いた途端、父親の目つきが鋭くなりました。



「シンデレラ……?ああ、部屋にいるよ」


「折角家族が揃ったんだから、シンデレラも降りてくるように言ってよ」


今度はアナスタシアが口を開きました。


義姉は二人とも、父親の変化に気付いていないようです。



「あなた、娘たちもこう言ってるのだから、呼んであげたほうがよろしいんじゃなくて?」


継母がそう言うと、父親は困ったように笑い、二階に上がって行きました。






「シンデレラ」


父親の冷たい声が廊下に響きました。



「何でしょうか……お父様」


部屋から聞こえてくる小さな声。間違いなくシンデレラの声です。



「新しい家族がお前に会いたがっている。早く降りてこい」


「分かり、ました」



それだけ言うと、父親は踵を返して階段を降りて行きました。




自分の部屋でシンデレラは写真を見ていました。


数年前、家族三人で撮った写真です。



どこから歯車が狂ってしまったのでしょう?



シンデレラは服の袖をぎゅっと握り締め、扉へ向かいました。





「お母様……私は、悪い子なのですか……?」




ぽつりと呟いた言葉は、静寂によって掻き消されてしまいました。