「飴森ぃー、叫ぶな俺にあんまり仕事を増やさせんなよ。放課後職員室な」

 


中野先生が面倒くさそうに、それでもニタニタと笑った。
もうどうでもいい。気にするとこはティーチャーではないのだ。


生徒が1人増える点で女の子か野郎か。それが大事だ今は。

 


中野先生にあとで怒られるにしても放課後怒られるにしても、
未来のあたしがなんとかやってのけるはず。多分ね、多分。


今すべきこと、それは転入生が男だったという現実について。
あたしは怒らねばならない。もちろん転入生の男子に。


ん? 理不尽? 大丈夫、この世は理不尽の塊だからさ。

 


「えーっと、自己紹介してくれ。飴森は早く座れ」

 


中野先生の鋭い視線にあたしは眉根を寄せながらも渋々座った。
勢いでもこの童顔ティーチャーには勝てない。無念。


今もみんなの視線を一身に浴びている男子は、
やや伏せていた顔をスッと上げると淀みなく口を開いた。


 

「……黒崎 帝(くろさき みかど)です。よろしくお願いします」

 


ものすごく簡潔すぎる挨拶に拍手をする気が失せた。あたし以外は。


 


「ちょ、なにあのルックス……!」
「髪とか超サラサラじゃん」
「スタイルいーね」
「なんかクールでカッコいい」


 


あたし以外、というよりはあたし以外の女の子、と言うべきか。
拍手は女の子たちの力によりバンバンとうるさいくらいに教室内を満たした。

 


「残念だったね」

 


全然残念じゃなさそうな口調のフードマン。
もうお前の言葉は聞きたくないわい。

 


「黒崎帝の影響で女の子のファンが減るかもねー」

「……うっさい」


 

あたしの返答に声を押し殺して笑い出すフードマン。
うん殴るよ? 殴っちゃうよ準備はいいでちゅか?

 


「1組は黒崎、2組は女子の月姫が転入生として入ってるから、もし機会があれば月姫とも仲良くしてやってくれ」

「……え?」

 


中野先生がとんでもないことをサラッと言った気がした。いや言った。

 


「2組は……女の子……?」


 

唖然として口を開けていると、
あたしの呟きを耳で拾ったのかブホッと噴き出したフードマン。

 


「だから運勢が最高で最悪なんだってば」


 

うん、もうこいつ殺るか。