コテージに戻ると順番にシャワーを浴びる。


私がシャワーから上がると、幸多は電話していた。


聞く気はなかったけど、相手の声が大きいので嫌でも聞こえてくる。



『何考えてんだっ!!まだアルバムの歌詞も書けてないのに旅行だって!?締め切り過ぎてるんだぞ!!』


「わかってますって。てか休みなんだし何しても良いじゃないですか。」


幸多のマネージャーさんの声だ…。
幸多凄くイライラしてるし。


私に気づいた幸多が、手を顔の前に出してごめん。のポーズをする。


私は、いいよって意味で首をふる。



『…まさか女と来てるんじゃないだろうな!?幸多、今が大事な時なんだ。分かってるだろ。』


『…わかってます。』


幸多の握る拳に力が入っている。

『とにかく、今すぐ戻ってこい。』


『えっ、ちょっと待って下さい!!今日だけ!!』





…ここまでだね。もぅ、十分だよ。幸多。


私は枕元にあったメモに



『素敵な誕生日ありがとう。もう十分だよ。お仕事頑張って。』



そう書いて、幸多に見せる。


幸多は首を振るけど、私は無理矢理、笑顔を作って幸多の手を握る。


幸多はしばらく私を見つめた後、小さなため息をついた。



『…わかりました。戻ります。』



それから、バタバタと荷造りをして幸多は迎えのタクシーにのって空港へと向かう。


「琴音、本当にごめん。これ、プレゼント。」



「わぁー。凄くキレイ。こんな高そうなのいいの?」


幸多がくれたのは私の誕生石のルビーをあしらったネックレスだった。


「うん。琴音に会えないぶん、金は増えたからね!」


幸多はそう言って笑う。


「秋には、ライブツアーがあるから…見にきて。」


「行くよ。もちろん。」


私は幸多にもらったネックレスをつける。


「じゃあもう行って。飛行機遅れちゃう。」


そう言って幸多の背中を押す。


幸多は私を抱きしめて、そっとキスするとタクシーに乗り去って行った。



タクシーが見えなくなるまで大きく手を振る。



そしてタクシーが見えなくなると同時にしゃがみこむ。



「ふぇ。こぉーたァー。」


どんどん。

どんどんあふれてくる涙。


ここには誰もいないから。


私は流れてくる涙を拭くこともなく泣き続けた。