「今度は間違っても母が作ったからあげなんか持ってこないでくださいね。びっくりしますから」

「大丈夫ですぅ!!2ヵ月前の私とは一味違いますから!!」

意地悪だと口を窄めて不満を漏らせば、即座に反撃される。

「さぞ素晴らしい出来栄えの食事が頂けることでしょうね」

王子さんはからかうようにクツクツと喉の奥で笑った。

(くっそう……)

そりゃあ、王子さんに比べたら私なんて素人同然ですよ。ついこの間までまともに玉ねぎも刻めませんでしたからね。

それに対し、王子さんは魚料理も超得意そうだ。ルージュランチで食べたテリーヌもそうだが、お料理レッスンで付け合わせに作ってくれるサラダやスープもとっても美味しい。サラダにあえてあるドレッシングはもちろん手作りだし、スープだって一度として同じ種類のものが食卓に上ることはない。

ぐうっと早く食べたいと俄かにお腹の虫が騒ぎ出す。こらこらお前たちさっきお昼ご飯を食べたばかりだろうと、食い意地の張った胃を叱りつける。

このままルージュランチの話を続けていると、お腹の虫が暴走をしてしまいそうなのでさりげなく話題を変える。

「王子さんは昔から菫さんのお店のお手伝いをされていたんですか?」

50人前のお弁当を会話もなしに黙々と作り上げる様はまさに職人芸である。

王子さんがつくねを盛りつけ、菫さんが上からたれをかける。息の合った親子の連係プレーは惚れ惚れしそうだった。