「望月さん、あなたには計量するという概念がないんですか?」

可愛いホーローの容器から砂糖を掬い取って鍋に入れようとしていた私を、王子さんは呆れながら止めた。

「砂糖は小さじ1だと言いませんでしたか?」

子供に言い聞かせるように声を荒らげず丁寧かつ辛抱強く言われてしまえば、私だって面白くない。

「うちの母とかは割と適当に入れてますよ?」

そりゃあもうバカスカと。袋から直接鍋にザバーですよ。

こんな可愛い容器にわざわざ入れ変えて、スプーンでちまちま計るところなんか見たことない。

「それは何十年という主婦歴がなせる業でしょう?あなたは初心者なんだから、キチンと計量しなさい」

「はーい……」

王子さんはキッチンの引き出しから銀色の計量スプーンの束を渡してくれた。

丸い金具に綺麗にぶら下げられたスプーン達をこれでもかとジイッと見つめる。

「どうしました?」

「あの……どれが小さじなのでしょうか……?」

「これですよ。小さじが5cc。大さじが15ccです」

王子さんは3つあるスプーンの内、中くらいのものと一番大きなものを指差した。

ふーん……。これが噂の小さじさんか。大さじと比較すると随分小さめである。

おっかなびっくり砂糖を掬い取って、鍋に入れようとするとこれまた王子さんに注意される。