「今日は何を作るんですか?」

「……ハンバーグです」

それを聞いて早くも王子さんの家から逃げだしたくなった。

なぜよりにもよってハンバーグなんだ……!!

私とハンバーグの間には逃れられない宿命でもあるというのか?

「まずは玉ねぎを切りましょう。包丁の持ち方は分かりますか?」

持ち方、持ち方ねえ……。

改めて持ち方を問われても困ってしまう。とりあえずいつも通り包丁を握る。

「これで合ってますか?」

両手で柄を持って包丁を振り上げるポーズを見せると、王子さんの方から絶対零度の冷たい空気が流れてくる。

「……全然違います。ふざけているんですか?」

「ふ、ふざけてません……」

「あなたの料理オンチがどの程度のものか良く分かりました」

王子さんは腕組みしてはあっと長いため息をついた。料理を教えると言ってしまったことを早くも後悔しているのだろう。

私だって申し訳ない。

俯いてにっくき玉ねぎを黙って見つめていると、王子さんは己のエプロンの紐を結え直して言った。

「私も本気になります」

その後、私は王子さんの料理にかける情熱とスパルタ教育という言葉の意味を思い知ることとなったのだった。