なるほど。このキッチンからあのおいしそうなおかずが誕生するわけか。

料理好きだとは思っていたけれど、これは極め過ぎなような気も……。

私より王子さんの方がよっぽど女子力が高い。

我が家の何にもないキッチンを思い出して卑屈な気持ちになる。

「どうぞ、こちらを使ってください」

王子さんがそう言ってキッチンの引き出しから取り出したのは、彼が愛用しているだろう黒色のカフェエプロンだった。

「ありがとうございます」

……忘れていた。今日は王子さんに料理を教えてもらうために来たんだった。

(さすが王子さん。抜け目がないです)

借りたエプロンを身に着けて邪魔にならないように髪の毛を結んだら準備万端である。

気合を入れ直して王子さんと共にキッチンに足を踏み入れる。

「食材は昨日の内に買っておきました」

シンクの後方、観音開きの冷蔵庫の中にはこれでもかというくらい、ぎっしりと食材が詰まっていた。

小分けにされたタッパーにはどれも日付と食材名が記入されていて、几帳面な性格が窺える。

王子さんはチルド室からひき肉、根菜類が入ったバスケットから玉ねぎを取り出して、ピカピカに磨かれた作業台の上に置いた。