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ルージュランチで湧く会議室から誰もいないオフィスフロアにやってくると、ただならぬ雰囲気をひしひしと感じた。

経費削減をかねた省エネ活動のせいで昼休みの間は照明が落とされ薄暗く、王子さんの表情は見えないが、腹を立てているのは間違いないだろう。

だって、眉間のしわがこれまで見た中で一番深いもの……。

「あのからあげ、本当にあなたが作ったんですか?」

口火を切ったのは王子さんだった。

「えと……その……はい……」

私はしどろもどろになりながら返事をした。

手作りと買ってきた惣菜の違いが王子さんに分かるわけがないと、高を括っていたのだ。

キッチンすみれの惣菜は冷凍食品やスーパーの大量生産品とは異なり、極力添加物を使わずご家庭の味に近いものを提供するように心がけていると菫さんから聞いている。

……そう簡単にバレない。

「じゃあ、この衣に混ぜてある隠し味を答えてください」

「……え?」

予想もしなかった問いかけにつられて顔を上げると、王子さんとレンズ越しの視線が絡み合う。

「あのからあげ、普通の衣とは異なる風味がしますね。作った本人なら当然答えられますよね?」

私は何も言えずにぐっと押し黙った。

……答えられるわけがない。だってこれは菫さんが作ったものだから。

背中からぶわっと汗が噴き出してきて、何とも言えない不快感をもたらす。

「答えられないんですか?」

……沈黙は肯定を意味していた。