「分かります!!だって、私は……」

……王子さんと過ごした日々が走馬灯のように蘇ってくる。

最初は怖い人だなって思っていた。

いつも難しい顔をしているし、ニコリとも笑わない鉄面皮振りに、なんて冷たい人だと勘違いもしていた。

でも、料理を教えてもらううちに、段々王子さんのことが分かってきたの。

料理をしている時の真剣な目つきが。大丈夫だと励ましてくれる手が。

私を虜にした料理の数々が、王子さんの本当の姿を伝えてくれる。

誰よりも愛情深いくせに、それを表現できない不器用な人なのだと教えてくれる。

「私は王子さんが好きです。好きだからそれくらい分かるんです!!」

好きです……。王子さん。

あなたのことが心から好きです。

どうしてもっと早く気付かなかったんだろう。

「お弁当は私が作ります……。王子さんに迷惑はかけません」

私はそう啖呵を切ると一目散に裏口の扉を開け、キッチンすみれの厨房から逃げ出した。

王子さんがどんな表情をしているのかは怖くて見られなかった。

早歩きで商店街から出ると、強張っていた身体から急に力が抜けてその場にしゃがんで膝を抱える。

(バカだ……)

今更、自分の気持ちに気づくなんて……。

売り言葉に買い言葉。

最悪な形で想いを告げて、恋心の自覚と同時に失恋してしまったわけだ。

結局、私は何がしたかったのだろう。

行き場のない想いは1月の冷たい風に吹かれて、跡形もなく消えて行ってしまうのだろうか。