「ありがとう、ひばりちゃん。良かったらケーキ食べない?商店街の皆さんからいただいた物があってね。どうも、私が胃潰瘍で入院したってことを知らなかったみたいで、買ってきてくれたのよ。一人じゃ食べきれなくて」

「じゃあ……お言葉に甘えて」

菫さんの指示に従って小型冷蔵庫からペットボトルのお茶とケーキ、棚から紙皿と紙コップを取り出し、セッティングをしていく。

「瑛介から聞いたわ。あの日、頼んでいた新メニューの試作品を持ってきてくれたんだって?」

「……はい」

私はお茶をコップに注ぎながら、ゆっくり頷いた。

菫さんはどことなく歯切れが悪い物言いで更に続けた。

「会社で……瑛介に変わった様子はなかった?」

「王子さんですか?いつも通り仕事してますよ。ああ、でも。ちょっと元気がないかもしれないですね」

元々、仕事中は無駄話をせず黙々と作業をこなすタイプではあるけれど、菫さんが入院してから、ふとした拍子に何か考え込んでいるように目を伏せていることが多くなった。

「やっぱり……思い出させちゃったかしら……」

菫さんはケーキを一口も口にすることなく、落ち込むばかりだった。

「……瑛介の父親も私みたいに店で倒れたのよ」

……それは、初めて耳にする話だった。