「お先に失礼します」

ランチライムがやって来ると、王子さんはフロアにいる皆に声を掛け退社していった。

「王子は今日も病院……?」

王子さんの姿が見えなくなると、麻帆さんが確認するように私に尋ねてくる。

「そうみたいです」

王子さんの予定が書かれているホワイトボードには軒並み午後休の文字。病院の面会時間に合わせて、朝早く出社し午前中に仕事をしてから、病院に行っているようだ。

「大変ねえ……。身内が入院しちゃうと」

麻帆さんも心当たりがあるのか、気を遣ってこっそり王子さんの仕事を肩代わりしている。

正直、菫さんが入院して大変な王子さんの手助けができる麻帆さんが羨ましかった。

(なーんにもできないんだよな……。私は……)

救急車で運ばれた菫さんの容体が心配で眠れないでいると、深夜12時を回った頃に王子さんからメールが届いた。

メールには検査の結果胃潰瘍が見つかり2週間ほど入院するということ、菫さんの命に別状はなく心配は要らないという旨が記載されていた。

“迷惑かけてすみませんでした。味噌汁は食べてしまってください”

最後に書き添えられた私を気に掛ける文字達を見て、涙腺が緩みかける。

(私の心配なんてしなくていいのに……)

母ひとり、子ひとり。

唯一の肉親である菫さんが倒れて大変なのは王子さんの方だ。

私は王子さんがどんな思いをしてこのメールを認めたのかと想像するだけでいたたまれなくなった。