「新メニューの開発?」

「そうなの!!ぜひ、ひばりちゃんにお願いできないかしら?」

菫さんはお願いと言いながら、カウンターに頬杖をついて期待を込めた眼差しで私の顔を眺めた。

年が明け、1月になり寒さが一段と厳しくなっても菫さんは今日も絶好調だ。

揚げたてのコロッケを待つ間キッチンすみれの店頭に置かれた石油ストーブで暖をとっていた私は、そうっとすみれさんから目を逸らした。

「菫さん……ご存知だとは思いますが私、料理が小学生顔負けなくらいヘッタクソですよ?」

そんな人に新メニュー開発を任せて良いんですか?お腹を壊しても責任はとれませんよ?

「大丈夫、大丈夫。ひばりちゃんはアイディアを出してもらうだけで、実際に作るのは瑛介だから」

菫さんはあははと豪快に笑うと、ふっくら揚げたてのコロッケをフライヤーからバットの上に転がした。

あの王子さんを顎でこき使えるのは菫さんだけである。母は強しといったところか。

「でも、お店で出す新メニューなら私みたいな素人より、菫さんが考えた方が良いんじゃないですか?」

菫さんはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、ずいっと顔を近づけてきた。

「最近、新しい惣菜屋が商店街に出来たの知ってる?」

その迫力に、たじろいで一歩後ろに下がる。貼りつけたような笑顔はなんだか怖い。

(惣菜屋、惣菜屋……)

頭の中の記憶を掘り起こすと、菫さんの言う新しい惣菜屋の心当たりがようやく見つかってポンっと掌を叩く。