いつの日か、好きな人と泊まりたい(はーと)と思っていた可愛らしい時期が私にもありました。

いつの日というが今夜である必要性は感じられない。

世の中どうなっているの?

っていうか、王子さんは本当に私とスイートルームに泊まるつもり……?

これは、つまり、そういうこと!?

ああ、待って待って!!私と王子さんはいつからこういう関係になったんだ!?

心臓バックバクで身体を小さくしていると、到着を知らせるベルが高らかにエレベーターに鳴り響いた。

宿泊客専用のエレベーターに乗って到着したスイートルームは、テレビで見るよりもずっと広くて、豪華なものだった。

「うわあ……」

通常のツインルームの2倍はあろうかという広さの客室には大きなテレビ、贅沢なソファとカウチ。パウダールームには女性には嬉しい高級ブランドのコスメセット。広いバスルームはゆったりとくつろげるように動線が設計されている。

機能性と豪華さを兼ね備えた上質な空間の中には、一流ホテルという自負と気品がそこはかとなく漂っていた。

そして、当然ながらベッドはひとつ……。

整然としたベッドの雰囲気に気圧され、クルリと踵を返したくなった。

(やっぱり断るんだった……)

心の準備なんてまったく出来ていない。

王子さんはおもむろにジャケットを脱いで、襟元のボタンをひとつ外した。

「少し、休憩しますか?」

……頭の中に王子さんの唇の造形が鮮明に映し出されていく。