出来ればあのカードキーが偽物であればいいと都合の良い展開を期待していたけれど、現実はそう上手く行かないようだ。

レストランを出ると案内役はギャルソンからホテルマンに代わり、本当にスイートルームへと案内される。

スイートルームはエレベーターホールの更にその奥、専用のエレベーターを使用するらしい。

直通エレベーターはゴールドのカードキーをかざすといとも簡単に操作できてしまった。

「あっ」

「大丈夫ですか?」

王子さんは慣れない高めのヒールのあるパンプスのせいでエレベーターと通路の段差に躓いた私をさりげなく引き寄せると、肩を抱いた。

今は、夫婦。夫婦だから仕方ないのよ。決してやましい関係じゃないんだから。

言い訳じみたとっさの自己暗示が捗る、捗る。

こんなことならノースリーブのワンピースなんて着るんじゃなかった。

強引に引き寄せられた肩から、腰に回された腕から、王子さんの体温を直に感じて今にも倒れてしまいそう。

当の本人は涼しい顔をしているから余計に小憎たらしい。

「ごゆっくりお過ごしください」

ホテルマンはエレベーターには同乗せず、扉の向こう側で去りゆく私達を見送ったのだった。