「少し、落ち着いたらどうですか?」

事の次第を見守っていた王子さんは満を持して口を開くと、テーブルに置いたままになっていたカードキーを指に挟んでギャルソンに微笑んでみせた。

「お気遣いありがとうございます。後ほど案内して頂けますか?」

カードキーはその存在を主張するかのようにゆらゆらと指の間で揺れている。

王子さんはカードキーを受け取った。……いや、受け取ってしまった。

「かしこまりました。お任せください」

ギャルソンは明らかにホッとした様子で一礼すると、そそくさとバックヤードに戻って行った。

「王子さん!!一体どういうつもりですか!?」

周りの迷惑にならないように配慮するように小声で言うと、呑気にコーヒーを飲んでいる王子さんをキッと睨みつける。

「お店の方も困っていましたので、ここは話を合わせる方が得策かと思いましてね」

お店で働く人に対する配慮は行き届いていても、私に対する気遣いはないのが王子さんらしい。

ああ、頭が痛い。

これは断じて、お酒の飲み過ぎのせいなんかじゃない。