「甘えないでください。中途採用の西崎さんだって最初の“ルージュランチ”をキチンとこなしました」
西崎さんを引き合いに出され、うぐっと二の句が継げなくなってしまう。
西崎さんは私より3ヵ月先に同じく中途採用で入社した40代後半の男性だ。専業主婦の奥さんと小学生のお子さんが3人もいるらしい。
家のことは妻に任せきりで自分は何も出来ないと照れながら言っていた西崎さんも“ルージュランチ”、すなわち手料理を披露したと……?
「あれは、いわば儀式なんですよ」
王子さんは灰皿に煙草を押し付けて、火を消すと私を諭すように言って聞かせた。
「我が社の人達は皆、バカみたいに仲が良いでしょう?」
バカみたいって……私も王子さんもその一員なんですけど。
確かに“フィル・ルージュ”はびっくりするほど社員間の仲が良い。仲が良いと言ってもベタベタ引っ付いてお世辞を言い合うような馴れ合いではない。
誰かが悪者になってガツンと言わなければならないこともあるし、言われた方も批判を受けとめるだけの信頼関係が構築されているというのは本当に凄いことだ。
だから、“フィル・ルージュ”は居心地が良いのだと思う。
……前の職場とは大違いである。
やつら、私が虐められていることを知りながら手を差し伸べるどころか、いつ辞めるのか賭けをしていたらしい。



