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(ターゲット確認!!)

王子さんが喫煙所に向かうのを見計らって、私もこっそり後を追いかけるようにしてオフィスから廊下に出る。

このビルも昨今の嫌煙の波をうけ全面禁煙となった。喫煙者の皆様は非常階段の踊り場にポツンと置かれた灰皿で肩身の狭い思いをしているそうだ。

したがって、今時珍しい喫煙者の王子さんとふたりきりになるのは意外と簡単だった。

王子さんの他に誰もいないことを確認し内側から鍵を閉めてしまえば、ほらヒソヒソ話をするのに相応しい青空眩しい密室の完成です。

「王子さん!!」

「はい?」

不機嫌そうな声色で背後を振り返った王子さんは、まさに今煙草に火を点けようとしていたところだった。

(うう……今日も怖い……)

喫煙所には春特有の生温かい風が吹いていて、折角セットしてきた自慢の斜めバングと肩まで伸びた内巻ボブをかき乱していく。

「折り入ってお話があります」

「そうですか。私にはありません」

王子さんはリラックスタイムの前にとんだ邪魔が入ったと言わんばかりのしかめっ面で煙草に火を点けた。

手すりに寄りかかってふうっと息を吐けば、ぽかーんと口を開けっ放しにしていた私の顔にも白い煙が当たって呼吸が苦しくなった。