「今日もありがとうございました」

玄関まで見送りに来てくれた王子さんに向かって深々と頭を下げると、踵を返して扉を開ける。

否、開けようとしたところで、王子さんに背後から取っ手を先に奪われてしまった。不審に思って振り返ると、そこには王子さんの顔のドアップが。

「急いでいるなら車で駅まで送っていきましょうか?」

「だだだ、大丈夫ですよ!!走って行けば間に合いますから!!」

お手を煩わすなんてとんでもないと、手を左右に振ってありがた過ぎる申し出を断る。

しかし、王子さんの目は私の足元に注がれたまま動こうとしない。

「ヒールの高い靴で走るのは大変でしょう。待っていてください。やっぱり送って行きます」

そう言ってリビングから車の鍵を取ってくると、半ば強引に地下駐車場に連れてこられることになった。

「早く乗ってください。急いでいるんでしょう?」

「すいません……」

ああ、もう!!

こっちは片手で足りるほどの恋愛経験しかなくて、免疫少ないんですからね?

助手席に座って王子さんを今よりもっと身近に感じてしまおうものなら、変に意識してしまいそうだ。

王子さんが運転する車は私の心中など顧みることなどなく、程なく駅のロータリーに到着した。

「それでは、また月曜日。会社で」

「はい」

早くも次の土曜日が待ち遠しかった。

私、フィル・ルージュに入社出来て、王子さんに料理を教えてもらえて、本当にラッキーだなあ……。