「“ルージュランチ”?」

先輩社員の麻帆(まほ)さんから聞き慣れない単語を聞いて、私はついつい首を傾げてしまった。

「あ、そっか。望月さんは初めてだっけ?」

麻帆さんは思い出したように、ポンッと拳を叩いた。

春風の中にまだ冷たいものが残る5月のある日、うららかなランチタイムのことである。

私は先輩の麻帆さんと一緒に出掛けたオフィス街にある隠れ家的小洒落たカフェのテラス席で、美味しいパスタに舌鼓を打っていた。

(はあ、今日も良い天気だなあ……)

ずっと心に想い描いていた理想のランチタイムをしみじみと噛みしめるように天を見上げれば、綺麗な青空が広がっていて。

あーでもないこーでもないと仕事の話を交えつつ摂るランチはこれまた絶品で。

数ヵ月前まで引き出しの音がやたらと煩い灰色のデスクで、隠れるようにひとりでコンビニ弁当を食べていたのがまるで嘘のようであった。