ステージには「ダイスケ」が居て、観客の視線を一身に集めていた。

私はその観客の一人。

彼はギターを一本抱えて、柔らかくて力強い声で恋の歌を歌っていた。

大学ではいつもお調子者の彼が、誰もが憧れるようなシチュエーションでスポットライトを浴びていることに、私は少なからず動揺した。


「ダイスケ」

ステージが終わった後、彼目当てに群がっている女の子達が途切れたのを見計らって、声をかけた。

「お、紗莉」

「おつかれさま。なんか、感動した」

「ほんとに?ありがとう。」

ダイスケは大きな目をくしゃっとさせて笑った。

「いつものダイスケじゃないみたいにカッコよかったよ」

「は?いつもはどうだって言いたいんですか?」

「いつもはただのサルじゃん」

「うるせーよ」

ダイスケの手のひらが私の頭を軽くはたこうとしたから、
少し目を瞑ると、予想に反してダイスケの手は私の頭を撫でた。

「紗莉、このあと空いてる?」

「え?」

「久しぶりだし、少し話そう」

「…ん」

鼓動が少し早くなるのがわかった。

ダイスケを見に来ている女の子はいっぱいいるのに、
私だけを誘ってくれたことが嬉しかった。