桜井柚葉がなぜ俺の家を知っていたかなんて話せるわけなかった。 「でも桜井さん、今日のピアノの練習を体調不良だってキャンセルしたんだよねー」 香山先生が、ひとり言のようにそう言った。 「えっ?」 「もしかしたら望月先生のお見舞いに行きたくて嘘ついたのかもしれないですね」 香山先生は俺の方を見てそう言ってニッコリ微笑んだ。 やっぱり目は奥は笑ってなくて……。 「じゃあ、失礼します」 香山先生は軽く会釈をすると、リビングを出て行った。