「鍵はここにかけといね」
先生はドアの隣に付いてるフックを指差してそう言った。
私は先生の指示通りにフックに鍵をかける。
「今日は入学式したばかりで疲れてるだろうから、あまり無理するなよ」
先生はそう言って笑顔を見せてくれた。
気遣う言葉と笑顔に私の胸はキューと苦しくなる。
言葉が出て来ず、頷くことしか出来なかった。
「じゃあ、頑張って!あ、あと、ここは飲食禁止だから」
先生はそう言って、ピアノ室を出て行った。
「はぁ……」
緊張していた糸が切れたのか、私の口から溜め息が漏れた。
気を取り直して、カバンを開ける。
でも……。
楽譜を持って来てないことに気付いた。
入学式した日からピアノ室が使えるとは思ってなかったから、楽譜はアパートの部屋に置いて来たんだった。
今頃、気付くなんてね。
「あははは……」
誰もいない静かなピアノ室に私の力の抜けた笑い声だけが響いた。



